2011年3月24日木曜日

放射能漏れに対する個人対策の指針

スウェーデン在住の研究者の方がつくられた個人対策の指針を転送します。目安のひとつとして。
この指針に従って、15日以来の文科省の定点計測データをみると、福島第一から北西20~40km あたりにいる妊婦さんは安全を確保するためには緊急脱出か脱出の準備を始めたほうがいい、ということになります。文科省データでは15日に北西20km地 点で300μSv/h、北西30km地点では16日以来ずっと100μSv/h以上を計測していますから。
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放射線についての調査結果等
都道府県別環境放射能水準調査結果を文部科学省でとりまとめ、随時掲載しています。
アクセスの集中を防ぐため、文部科学省ホームページほか、下記にも情報を掲載しておりますので、ご覧ください。
http://eq.yahoo.co.jp/
http://eq.sakura.ne.jp/
http://eq.wide.ad.jp/
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以下転載
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放射能漏れに対する個人対策

=== 転載自由(source code をそのままコピーして下さい) ===

放射能に関して、 放射線医学総合研究所(事故対策本部に加わった組織)を
始めとして、多くのメディアや研究者が 『現在の放射能の値は安全なレベルである』
という談話を発表していますが、残念ながら、どの組織も 『どこまで放射線レベルが
上がったら行動を起こすべきか(赤信号と黄信号)』を発表していません。
これでは近隣地域の人々の不安を払拭する事は出来ないと思います。行動を
必要とする危険値や警戒値を語らずに『安全です』と言ってそれは情報とは全く言えないからです。これは我々が取り扱っている宇宙飛翔体での管理についても
言える事です(その為に宇宙天気予報があります)。

そこで、少々荒っぽいですが、行動指針を概算してみました。科学的に厳密な
予測は気象シミュレーションや拡散条件など多分野に渡る計算を必要として、
短い時間にはとても出来ないので、多少の間違いもあるかも知れませんが、
緊急時ですので概算をここに公表します(3月21日現在)。

先ず第一に、刻々と変化する放射能に対してどう判断するかです。色々な
研究所が上限値を出していますが、これが総量である事が問題です。というのも
測定値は1時間当たりの値だからです。とりあえず、総量100ミリSv
(Svはシーベルト)という数字で考えてみます。この数字は原子力関係者が
緊急時に受けて良いとされる政府基準・東電基準で(平時50ミリSvの倍、
ちなみに国際基準は500ミリSvなので政府は今回に限り250ミリSvに引き上げた)、
更に妊婦を除く大人が受けても概ね大丈夫と科学的に示されている値
でもあります( R.L. Brent の2009年のレビュー論文を参照)
居住地付近での悪化に気がついてから脱出まで半日かかるとして、かつ
状況が刻々と悪くなる事を考慮すれば、危険値は100時間で割るのが
妥当ですから、
(1) 居住地近くで1000マイクロSv/時(=1ミリSv/時)に達したら、
緊急脱出しなければならない = 赤信号。
という事になります。しかしながら、この値になって行動すると云う事はパニックを
意味します。現在の値の変動幅を見るに、一桁の余裕を見れば数日の余裕が
あると考えられます。逆に言えば、1割以下の量を超えた段階で行動を
開始するのが妥当で、

(2) 居住地近くで100マイクロSv/時(=0.1ミリSv/時)に達したら、
脱出の準備を始めた方が良い = 黄信号。 という事になります。

第2に、妊婦に関する特別な考慮です。事故対策本部の放射線医学総合
研究所に100ミリSv(総量)で大丈夫とありますが、これは正確ではありません。
上にあげた R.L. Brent のレビュー論文(2009年)によると、100ミリSv(総量)
というのは、1%以上の人が影響を受ける値です。つまり、安全値というより、
むしろ、これを越えると有為な差があるという危険値です。
論文の Table 5 や Figure 4 論文を見ると、おおむね安全と言えるのは
5ミりSv(総量)以下で、そこから100ミリSv(総量)まではグレイゾーンです。
現に、大人の場合、同様に『大人に明らかに影響がある』と言われる
1000ミリSv(総量)に対して、原子力従事者の緊急時安全基準は1割の
100ミリSv(総量)です。普通の人が毎年放射能を受ける訳でない事を
考えても、3割(30ミリSv)以下でおおむね安全と考えるのが妥当で、
その事は上記論文の Figure 4 からも見て取れます。ということは、

(3) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地
近くで300マイクロSv/時(=0.3ミリSv/時)に達したら、緊急脱出
しなければならない = 赤信号。

(4) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地
近くで30マイクロSv/時(=0.03ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を
始めた方が良い = 黄信号。
となります。
逆に言えば、(2)や(4)の1割以下(居住地近くでの値が、普通の人で
10マイクロSv/時、妊娠初期の人で3マイクロSv/時)なら安心して
良い事になります。ちなみに、放射能の影響は、細胞分裂の活発な
若い人ほど深刻だと思われている(注:未確認ですので情報を持っている人は
お教え下さい)ので、乳幼児や子供は妊婦と大人の中間になります
(上記論文の表4参照)。

第3に、距離との関係です。チェルノブイリで問題になったのは事故現場からの
直接放射でなく、そこで発生した高濃度の放射性噴煙が移動しながら
出す放射線でした。
福島原発も、レベルは違うものの放射性ダストを外に出しています。というのも、
燃料棒が壊れて、しかも開放弁を通して外気に直接触れているからです。
水を被っていない燃料棒は、焚き火での焼けぼっくいと同じように、
マイクロスケールでの崩壊(爆発)を繰り返して、それが放射能の濃淡を
作ります。この手のマイクロスケールの高濃度ダスト放出は自然界では
普通に起きている事で、それ故に科学者でなくても多くの人が
『そんなものだ』と感じているでしょう。このリスク計算がありません。

地表と違って上空100mを越えると風は安定的にかなりの速さで吹いています。
その場合、だいたい10m/秒という見積もりが良く(10km上空は
50~100m/秒です)、この速度だと、高濃度の放射性ダストは(サイズにも
よりけりだけど)数時間は拡散せずに放射能を出し続けます。一部の
人が言っているように距離の逆自乗で減衰する事はありません。
10m/秒とは時速約40kmに相当します。そのようなダストは原発現場でも
高濃度の放射能を出しますから、現場で非常に高い値を記録したら、その
風下の人間は緊急に室内に退避しなければなりません。その警報が
届くまでに2時間見積もる必要があり、そこから80km圏という数字が
簡単に出て来ます。ちなみに、こういう警報は日本語で出されますから、
日本人(現状では1時間以内で対応すると思われる)と外国人とでは避難の
速さが違い、その為に日米での退避半径が違うと考えられます(もちろん、
避難範囲を広げると国が後日保証しなければならない人が多くなる、という事情もあるかも知れませんが、そういう政治的・裁判手管的考察はここではしません)。

ここで風向きをどう知るかが問題になります。要領は花粉予想や煤煙予想と
同じなので、気象庁で出来るはずですが、残念ながらそこまで至って
いません。ですが、海外の研究所がこの予報を出しています。日本全体は
ノルーウェー気象研究所http://transport.nilu.no/products/fukushima
が出していて、例えば地表のどこにダストが届くかは これ です。
この予報は ノルーウェー気象研究所http://www.yr.no/)の風向き予報
(例えば東京だと これ)に基づいています。

もちろん、予報と実際の値は得てして違います。ですから、実際の地上での
風向き(アメダスなどの観測値)も見る必要があります。この場合、地表から
上空1km程度まで、風向きがゆっくりと時計回りに変わる事(エクマン螺旋と
いいます)を考慮して、誤差を最大120度と見積もると、地表風向きに対して
(上から見て)時計回りに90度、反時計回りに30度の範囲が風下に当たります。

さて、では福島原発での放射能の値がどれだけ上がったら室内退避を
すべきでしょうか? 急速に運ばれた放射性ダストが、例えば朝凪夕凪になって
居住圏にジグザグしながら浮遊するとして、2時間を想定すれば50ミリSv/時が
危険値です。つまり

(5) もしも原発の近くで50ミリSv/時を越えたら風下100km以内
(時計回り90度、反時計回り30度の扇形)の人は緊急に屋内に退避し、100km以上でも近くの放射能値情報に随時注意する = 赤信号。

では警戒値はどの程度になるでしょうか? この場合、原発での測定が一ヶ所で
あることを考慮しなければなりません。局所的な高放射能雲なので、一桁の誤差を
見積もる必要があります。従って、緊急避難値の1割の5ミリSv/時という事に
なりますが、この位の値になると、原発正門(測定値のある所)では、
事故現場からの直接放射の量が大きくて、浮遊性ダスト起源と区別がつきません。
こういう時は変動幅を使うのが常套です。つまり

(6) もしも原発の場所で急に5ミリSv/時以上の変動が見られたら、
風下100km以内(時計回り90度、反時計回り30度の扇形)の人は
なるべく屋内に退避し、100km以上でも近くの放射能値に随時
注意する = 黄信号。 となります。

最期に、気象庁と原子力保安院への提言です。原発サイトの回りでの
放射性ダストの分布を推定する為に
(a) 原発を取り巻くような形で500m程度離れた地点での放射能モニターを
至急設置して欲しい。
(b) ダストと風の垂直分布と知る為に、気象ゾンデに放射能モニターを
積んで、毎日数回、原発サイトの近くで打ちあげて欲しい。
これらの情報があるだけで、放射性ダストの行き先の予測が非常に
楽になります。

written 2011-3-18
revised 3-19: (1)と(2)を追加
revised 3-21: (5)と(6)とラストを追加、放射性ダストの流れの予報サイトを追加、
(1)~(4)に『居住地近くで』を追加、安全基準値に関するミスを修正。
山内正敏
スウェーデン国立スペース物理研究所(IRF)
(日本の研究者が研究室と学会(被災地の研究室)の復旧で手一杯の
ようですので、海外の私が敢えて発信する事にしました)
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単位について(Gy と Sv)

Sv = Q x Gy

で大抵は Q=1 です。但し、ソースの近く(原子炉の近くとか、放射性ダスト
の近く)では中性子の事があり、その場合はQ=10です。

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